自民・公明の非常識な「専守防衛」の歪曲
安倍政権が、これまで一般に使われてきた「専守防衛」の意味を全く変えて使っていることは、すでに広田一議員(当時 民主党)が国会で指摘しています(2015年07月30日の参院安保特別委員会):
→ https://www.dpj.or.jp/article/107258
→ https://www.youtube.com/watch?v=X1sP1UpzGlY
公明党の文書でも、「専守防衛」の意味が変えられてしまっているので、改めて確認しておきたいと思います。 (以下、引用中の傍線は筆者による)
1. 「専守防衛」―― 従来の意味
まず従来、「専守防衛」が世間一般にどう理解されてきたのか、いくつかの辞書の定義を見ておきます。
・三省堂 大辞林(weblio):
他へ攻撃をしかけることなく、他から自己の領域が攻撃を受けたときに初めて,その領域周辺において自己を守るためにのみ武力を用いること。
http://www.weblio.jp/content/%E5%B0%82%E5%AE%88%E9%98%B2%E8%A1%9B
・デジタル大辞泉(goo辞書):
他国へ攻撃をしかけることなく、攻撃を受けたときにのみ武力を行使して、自国を防衛すること。武力行使を禁じた日本国憲法下での自衛隊の主任務、性格についていう語。
http://dictionary.goo.ne.jp/jn/126438/meaning/m0u/
・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典(コトバンク):
日本の防衛戦略の基本的姿勢を指す。
その内容は「相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し,その防衛力行使の態様も,自衛のための必要最低限度にとどめ,また保持する防衛力も自衛のための必要最低限度のものに限られる」とされている。 (1989年版『防衛白書』) 。
コトバンク > ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 > 専守防衛とは
https://kotobank.jp/word/%E5%B0%82%E5%AE%88%E9%98%B2%E8%A1%9B-159107
・ウィキペディア:
専守防衛は戦後の日本(自衛隊)の基本的な軍事戦略とされてきた。・・・
防衛上の必要があっても相手国に先制攻撃を行わず、侵攻してきた敵を自国の領域において軍事力(防衛力)を以って撃退する方針のことを意味する。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%82%E5%AE%88%E9%98%B2%E8%A1%9B
・はてなキーワード:
戦後の日本の基本的な防衛戦略。
自衛のための最低限の軍備により、相手の攻撃を受けてから初めて軍事力を行使し、先制攻撃や自国領土外軍事活動は行わないのが原則である。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C0%EC%BC%E9%CB%C9%B1%D2
また、防衛省・自衛隊の「専守防衛」の説明はこうなっています:
専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいいます。
防衛省・自衛隊・ホーム > 防衛省の取組 > 防衛省の政策 > 防衛政策の基本 > 3.その他の基本政策
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon03.html
以上、一般の辞書を見ても防衛省・自衛隊の定義を見ても、「専守防衛」の定義はどれも:
「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使する」
という点で共通していることは明らかです。
別の投稿(「戦争法」はレッテル貼り? なぜ自公の安保法を「戦争法」と呼ぶのか?)でも取りあげましたが、武力の行使には、相手より先に相手を攻撃をする場合と、先に攻撃してきた相手に対して「反撃」する場合があります。
相手から先に攻撃を受けた事実があって武力行使する場合は「反撃」になり、先に攻撃を受けた事実がなくて武力行使する場合は、先に相手に攻撃をしかけること(「先攻」)になります。
相手から先に攻撃を受けた事実があるかどうかで、「反撃」か「先攻」かが明確に分かれます。
日本政府の従来の見解は:
「個別的自衛権と集団的自衛権、これは、国際法上、我が国に対する武力行使があるかないかということにおいて明確に一線が引かれています」
(岸田外務大臣・2014年6月2日・衆院安全保障委員会外務委員会連合審査会)
ということですから、我が国に対する武力行使があってから「反撃」することは、個別的自衛権の行使になり、我が国に対する武力行使がなくて(他国への武力攻撃をきっかけに)先に相手に攻撃をしかける場合は集団的自衛権を行使することになります。
従って、「相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使する」という一般の辞書や防衛省・自衛隊の「専守防衛」の定義によれば、「専守防衛」とは相手から先に攻撃を受けた事実があってから「反撃」することであり、個別的自衛権を行使することに当たります。
先に攻撃を受けた事実がなくて武力行使をする集団的自衛権の行使は「専守防衛」とは云えません。 「フルスペック」だろうが「自衛のための一部限定」だろうが、集団的自衛権の行使は、我が国に対する武力行使がないにもかかわらず先に相手に攻撃をしかけることであり、「専守防衛」とは呼べないのです。
2. 公明党パンフレットの「専守防衛」の使い方
公明党のパンフレット『「戦争法」は大うそ・戦争を防ぐ平和安全法制』(公明党機関紙局)の中から「専守防衛」について言及している箇所を見てみると、判で押したように「専守防衛を堅持」と謳っています。 一部を抜粋してみると:
① 「戦争法」との表現は誤解を招く。今回はあくまで専守防衛を堅持したものだ。
(渡部恒雄・東京財団上席研究員・15頁)
② 最も大きなものは、憲法9条の下で許される自衛の措置が自国防衛に限られるということです。
自衛隊の武力行使の限界について、2014年7月の閣議決定で「新3要件」を定め、法文上にも明記しました。
これにより、自衛の措置が他国防衛を認めず、専守防衛を堅持するための厳格な歯止めが掛けられました。
(山口代表・21頁)
③ 専守防衛、・・・という戦後日本の安全保障の基本理念は全く変わりません。
・・・ これにより、他国防衛を認めず、専守防衛を堅持するための厳格な歯止めが掛けられました。
(北側一雄副代表・23頁、24頁)
④ 平和安全法制は、他国の武力攻撃であっても、日本が武力攻撃を受けたと同様の被害が及ぶことが明らかな場合を存立危機事態と定め、自衛の措置を認めました。これは専守防衛の範囲内であり、「憲法違反の集団的自衛権の行使を認めた」との批判は的外れです。
(Q&A平和安全法制・31頁)
上の④は、要するに「存立危機事態」での「自衛の措置 」=実力行使が「専守防衛の範囲内」だという言い分です。
防衛省によれば「存立危機事態」の定義は次のようになっています:
「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」
防衛白書トップ > 第II部 わが国の安全保障・防衛政策と日米同盟 > 第1章 わが国の安全保障と防衛の基本的考え方 > 第3節 平和安全法制などの整備 > 2 平和安全法制整備法案の概要 http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2015/html/n2132000.html#a6
これは、7・1閣議決定の憲法上許容される自衛の措置の要件について述べた部分:
我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、
我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合・・・
「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」平成26年7月1日 国家安全保障会議決定・閣議決定
の「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、」の次の部分そのままの文言です。 即ち「我が国に対する武力攻撃が発生し」ていない場合が、「存立危機事態」です。
一般の辞書や防衛省・自衛隊の「専守防衛」の定義によれば、「専守防衛」とは相手から先に攻撃を受けた事実があってから「反撃」することでしたから、我が国に対する武力攻撃が発生していない「存立危機事態」で実力を行使することは「専守防衛」とはいえません。
つまり、「存立危機事態」での「自衛の措置 」=実力行使 が「専守防衛の範囲内」だという上の公明党パンフレットの言い分は、一般の辞書や防衛省・自衛隊の「専守防衛」の定義に照らして全くの誤りであり、白を黒と言いくるめるようなものです。
それにもかかわらず、自民・公明が「存立危機事態」での実力行使 が「専守防衛の範囲内」だと言い張るのであれば、それは、既に一般に定着した「専守防衛」の定義を強引に上書きしようとするような非常識な蛮行に他なりません。
わいきょく